LM380と6BQ5アンプの聴き分けテスト

準備 LM380(あやめ)のほうの出力に4.7Ω(5W)のセメント抵抗をかませて出力インピーダンスを
    揃えました。

機器 パイオニア DV−515、 オールFETプリ、被検アンプ、賀茂



測定データ


    トランスを持つ6BQ5のほうが低域がフラットではない。



   両者ほぼ同じQになっているが6BQ5のほうが帯域制限を受けている。



   LM380は低歪で2次歪をもつという性格のアンプ。ノイズレベルは良く似ている。




  私の感覚では、高域は同じと見ていい。特にどちらかがなめらかとか、エッジ反共振が
少ないなどということは観察されない。



   あやめは反転アンプなのでこうなっているが、過渡特性は同じになっている。位相は高域で
6BQ5が回転している。















  試聴

   さて以上の所見を元にバイアスかけまくりで、もちろん実物を見ながらテストをする。

   しばらくは、パソコンを打ちながらあまりそちらに集中しないで聴いてみる。ほんとに
区別がつかない。Zo=4Ωというアンプはフラットなスピーカーでは低音が過剰になるため、
元気のいい印象をうける。高域がどうかというところまで注意がゆきにくい。

  どちらも低域が元気で高域はそこそこ、どちらが上ともいえないような状況である。それも
そのはず、長い経験からもQが同じならトランジェントな波形も全く同じになることはわかってい
るので、べつに不思議ではない。

  高域がちょっと聴きで似ているのは、どちらもそこそこの特性のアンプだからのような気がする。

参考






   電圧出力アンプの低歪は高域では無効という法則があるため、これがただちに音には
影響しない。むしろさきほどの音圧でみるサインスイープ高調波歪測定のほうが参考になる。


  さらに試聴

    まわりの環境を静かにして、かぶりつきで聴いてみる。顔が全く同じといってよい相手の
微妙な差を調べるのだ。

  アンプの差をみるのにはJVCの名盤、マウンテン・ダンス(XRCD)の2曲目をいつも用いている。
この曲はTBSのゆうゆうワイドでかかっていたので少しなつかしいし、楽器の編成が絶妙なので、
音の質感を効率良く調べることができる。

  冒頭2秒で、小さいベルのような音が鳴るが、これがどこから聴こえてくるか。アンプによっては上の
ほうから聴こえてくることがある。

  冒頭32秒から何回か拍子木のような音が鳴るが、アタックの微妙な時間差と展開するエコーを聴い
てみる。

  さびの部分で高音楽器が集中し、金属的な音を響かせるがそのときに中音楽器がアレンジ上いなく
なる。真中がないので、非常によく聴き取れるのである。

  これらの音像が脳内に展開するのをひたすら読みとってゆくのである。



  さて、わたしの聴いた結果はつぎのようになる。

  1 6BQ5のほうが楽器の質感がわずかだがリアルで美しい。静かな印象もある。

  2 小さいベルは6BQ5ではスピーカーの間の右よりにふつうに鳴る。LM380では、
    もっと遠くのほうに位置が明確にピンポイントで鳴る。

  3 左右の拍子木はLM380のほうはきれいに左右に分離し、エコーも自然。

  4 LM380のほうが楽器音が空気に溶け込む感じがある。抑揚にやさしさがある。


   繰り返すようだが、両者の顔は全く同じなのですれちがったくらいでは区別がつかないのは、
 確かなようである。


  附記

   何故わざわざオープンテストの方が良いと考えるのかその理由


    嗜好品を味わうのに五感をすべて使って味わうのは当然である。食べるものでも目隠しをしたり
嗅覚をブロックしたりすれば味わいが半減するのはよく経験するところである。目で見ながら食べると、
食べる前におそらくこんな味だろうというフィードフォワード制御がかかる。そのため見た目が同じで味が
違うものだと脳にショックを受ける。牛乳と思ってドリンクヨーグルトを飲むと酸っぱさに驚くことがある。
  口に運ぶ直前に準備が行われ、よりよく味わえる体制が整うのだと思う。

  アンプも見た目によりフィードフォワードが強力にかかり、高級な外観のアンプはやはり高級な音に
聴こえることがある。それはそれで悪くはない。

  聴く側の感度を高め、より良く味わうためには五感すべてを使うことが基本なのである。


  何故バイアスをかけまくって聴くのかその理由


  これも検出感度を最大にするためで、バイアスをかけるというのも一概に悪いとはいえない。
医者の場合、ある病気を念頭において診察するというのは見逃さないための基本であるし、そのため
かえって方向を間違うという危険性もあるが、最終的に医学的に証明できれば問題はない。

  アンプの場合も測定データの予備知識込みで聴けば、より多くの違いが認識できる可能性が有る。

  思い込みによる間違いとフィードフォワード


   最初の段階ではフィードフォワードによる制御が強くかかり、その影響を受けやすいが時間がたつに
つれその影響は薄れ正しい判断に至る。

  これはよく経験することで、ある日カセットを聴いていて(ビル・エヴァンスが入っていると思い込んでいる)
「おや、このビル・エヴァンスはほとんどドビュッシーのような技法に達しているじゃないか」と思いつつ、確認
するとドビュッシーであったということや、こういうことはアンプでもありえる。

  見た目がほとんど同じアンプの場合、4段重ねアンプの1の段と3の段で勘違いしていたことや、仮想オペ
アンプシリーズで刺していたICを見ずに聴いていて勘違いしたことがある。

  こういうことはやっぱり耳ではわからないのでは?思い込みによる空耳では?という疑問につながりやす
いが、脳によるフィードフォワードが解除されてくると、耳での分析が優るようになり正しい結論に至るのである。
時間さえあれば、大きな差なら見抜くことができる。僅少の差はやはり難しいかもしれない。

  人間が日常空間を暗闇でもすばやく動けるのは小脳によるフィードフォワード制御のおかげであるといわれて
いるが、運動機能以外でもいろいろなフィードフォワードが働いているようである。

  医療事故が起こるのも、慣れてくるにしたがってフィードフォワードで動くようになり確認(フィードバック)を怠るからであり、
ときどき故意にフィードフォワードを解除することが事故の予防につながる。