線形増幅講座
オーディオアンプにとって増幅の線形性が重要であるのは言うまでもありませんが、実際の製品でこのことに
真面目に取り組んだものは皆無に近い状況です。線形増幅に必要なのは無歪出力段と無歪電圧増幅段であるこ
とは明白ですが、高級アンプといえども非線形出力段と非線形電圧増幅段の組み合わせにNFBをかけたものが
ほとんどであると言えます。出力段の非線形性は特に大きいのでNFBで改善しようとすると40〜60dBのNFBを
かけることになります。これによって音は圧縮され重ね合わせの原理が失われます。
それだけでなくゲインを稼いでいるのは電圧増幅段なので、めいっぱいゲインを上げようとすると電圧増幅段の
歪も相当なものになります。それによりなおさら重ね合わせの原理がなりたたなくなります。
一度線形系アンプを聴いてみると音楽信号増幅における重ね合わせの原理がいかなるものかが理解できると
思いますが、残念ながらそのようなアンプは稀少なので、一般の人が経験できることは滅多にないのです。
電子回路の素養のある人なら実際に組んでみて確かめることもできるでしょうが、そのような人はNFBで事足れり
とし、大概こういったことは馬鹿にしているのかやらないでいることが多いようです。
線形系電圧増幅段+AB級MOS−FET SEPPの例としてはサトリアンプがあります。
同じく線形系電圧増幅段+A級バイポーラ SEPPの例としてパイオニア M-Z1 が昔ありました。
普通の電圧増幅段+ZDR化MOS−FETの例としてはソニーのTA-N900がありました。
普通の電圧増幅段+ZDR化バイポーラにはヤマハの製品がありました。
V−FETアンプの製品は過去にソニー、ヤマハ、ビクター、山水、日立で出ていました。線形出力段
ということになります。
ベース電流ドライブバイポーラアンプは製品はないので各自で実験してみるしかありません。
大電流を流す出力段はVbe(Vgs)の非線形性がでてくるのでやっかいです。負荷が8Ωと低いため大電流に対応した素子
が必要になります。
最も多く採用されているバイポーラのSEPP出力段です。安価で高性能といわれています。アイドリングはB級(50mA)に設定
しています。
このように偶数次歪だけでなく3次、5次、7次と高次の奇数次歪も発生しています。A級にすれば偶数次歪は
かなりキャンセルされますが、奇数次歪をキャンセルすることは不可能です。NFBをかけるか、多数パラにして
全体の歪を下げるしか対応する方法はありません。
参考
これは或る方法でZDRをかけたもので無歪出力段になっています。
これはB級MOS−FET出力段を見たものです。
このように2次歪が主体ですのでA級動作にすればキャンセルできるはずです。MOS−FETの
A級プッシュプルはかなり有望な方式です。
V−FET出力段の場合
三極管特性のV−FETはほとんど直線増幅を行っていることがわかります。しかもこれはシングルのときの特性です。
これはソース接地の特性ですので、金田式で作ればこの特性をそのまま生かせます。また市販アンプにもソースフォロアと
ソース接地があったようです。
ソース接地アンプの例
MOS−FETはこのように飽和特性で、シングルだと直線性もそれほどよくありません。
FETの良さはでていると思いますが若干くせが残ってしまいます。実際の製品はソースフォロアがほとんどですが、
ソースフォロアにもこの癖はでるのです。
ベース電流ドライブバイポーラアンプはPNPバイポーラトランジスタのこのような特性を生かすように設計されたものです。
初段がJ−FETの差動アンプですから偶数次歪がキャンセルされ、全部が線形系アンプで構成されて
います。
線形系電圧増幅段はこれらしか存在しないと思います。差動1段はゲインがどうしても少なく
なるのでNFB処理が追いつかず大出力時に歪が増大するようです。オールFET金田式は差動
2段方式であり、或る程度ゲインを確保して出力段の歪も処理しています。
したがって現在の素子を使って作る究極の半導体アンプといえば、次のようなアンプが考えられます。
オールFET差動2段V−FET SEPPアンプ(完全対称アンプ)
オールFET差動1段 ZDR化MOS−FETアンプ
SLC電圧増幅段 A級MOS−FET SEPPアンプ
サトリアンプ
蝦名式(蝦名式電圧増幅段+MOS−FETパラ)
初段FET差動ベース電流ドライブバイポーラアンプ(完全アンプ)
これらが長年の研究の結論のようなものです。理論だけでなく聴いた感じもそのとおりだと思います。
また金田式は線形増幅理論に矛盾しない優れたアンプであると結論付けることができます。その他の
大多数のアンプがむしろ邪道であることが言えてしまいます。(三極管SEPPアンプなどは除く)