音の違いについて

  キーワード : 帯域バランス 音のディテール fs共振 信号への追随性 電流歪み

§1 何故スピーカーを替えると音が大きく変わり、アンプでは変化がすくないのか?

  それは一言で言うと、帯域バランスがスピーカーによりかなり異なっている
からです。別々のスピーカーを設計して同じ帯域バランスにすることは至難の
技かもしれません。

  この帯域バランスに対して、聴覚はかなり敏感ですから替えた瞬間にものすごく
違和感を感じるはずです。しかし、順応性も大きいのでしばらく聴いているとかなり
慣れてくるという現象も起こります。

  一方、アンプの帯域バランスはほとんど同じに仕上がりますから、アンプを
替えてみたところで音の変化は極くわずかです。帯域バランスに影響してくる
のは出力インピーダンスです。これはfsにおける音圧を支配しているので、出力
インピーダンスの変化はワンポイントのトーンコントロールの変化と同等です。

  出力インピーダンス(Zo)が同じアンプの場合、音が違うかどうかは帯域バランス
の問題ではなく、音のディテールの領域になります。

  よくいわれているバイポーラとMOSの出力段のアンプの違いがそれに相当します。
もしNFBをどんどん深くしてゆくと区別のつかない音になる可能性はありますが、
市販されている一般的な帰還量のアンプでは差はかなりはっきりわかります。

  旧式MOSやV-FETを捜し求めているオーディオファンが世界中にいるというのも
今の素子と音的に代替がきかないからでしょう。

  2つのスピーカーをグラフィックイコライザーで周波数特性を合わせたとき全く
同じように聴こえる(音のレプリカ)、というのも帯域バランスがどうこうという話です。



§2 音の識別条件

  ソースに含まれている音数がちょっと増えただけですぐわかる人は、耳がよくて
しかもそのソースをディテールまで覚えているということになるでしょう。

  そういった状況で、しかもスピーカーがフォステクスのフルレンジのようなもの
であったなら、アンプを替えて情報量が増えた場合それがすぐわかるでしょうし、
楽器の質感の違いも感じ取ることができます。

  その3つの条件を満たしていない場合はなかなか難しいと思います。

§3 音のディテールとは  

  それがよくあらわれるのはシンバルとかタンバリンのような金属的な音、
余韻の長さ、空間に充満する間接音などで、悪いアンプだとそれらはすべて
駄目です。

  それらは終段素子だけでなく、コンデンサー、整流ダイオードなどによって
も変わりますし、接点の数なども影響を及ぼします。それらが好ましい方向に
変化する場合はそういった部品を積極的に使うのが良いと思います。部品に
よって音は変わらないというのも見識ですが、感覚が支配する領域ではそれで
済ますことはできないでしょう。

§4 未知の音領域

  カッターヘッドのような強烈なfs共振を持つ機械は、MFBなしではとても成り立た
ないので、MFBはあたりまえですが、スピーカーはどっちともいえない微妙な位置に
あります。そのため世のほとんどのシステムは電磁制動のみで制動動作するように
設計されています。

  何故ならアンプの駆動能力が高く、スピーカーが小ぶりな場合、磁束の乱れも少
ないのでほぼ理想どうりに電磁制動がかかるからです。これではMFBは不要です。

  しかし私の経験ではその領域は意外に狭く、かなりのケースはMFBがあったほうが
良いと見ています。

  オーケストラの音が重なる部分のにごり感や、ハープ独奏におけるもやもやした感
じは、低音のエネルギーが大きいためfs共振を誘発するために起こるので、そこでQ
を下げて共振を少なくしてやればものすごくはっきり聴こえるようになります。

  またfsをあまり下げられない状況で、信号への追随性を良くするには速度MFBなど
を適宜かける必要があります。先ほど述べたように、スピーカーのQoを低く設計し、
大出力アンプを用いたとしても電磁制動はすぐ破綻してしまいますし、fsを無理に下げ
ようとするとますます破綻しやすい制動が難しいシステムになります。

  電流出力アンプによる音の変化も未知の領域にあります。

  Zoを8Ωくらいまで高めて行くと、fsでの制動がゆるくなり低音の量感がまします。
さらに数百Ωにまで上げて行くと、電流歪み、磁気歪みなどが減少し、さらに上げて行
くと立ちあがりがスルーレートの限界まで改善してきます。

  こういったことは旧来の議論では勿論考慮されていませんでしたし、そういうもの
も含め全部聴いた上で音が変わるのかどうか検討が必要です。