オーディオ奥義外伝

1 gmこそすべて

2 0で乗算しました

3 素子のgmをそのまま生かす回路とは

4 余計なことはするな

5 極意ブレッド&バターシステムとは

6 ハイブリッドアンプの陥穽

8 Cシステムをさらに追究する

9 FE83恐るべし

10 木のスピーカーではオケが濁る?

11 ハイスピード金属エンクロージャー

12 美しい音をだす技術

13 個別の楽器の際立った音での再生

14 オーケストラのエネルギー感の再生

15 DCアンプの作り方

16 アンプの実特性

17 銘機FE103

18 何故シングルアンプが自然なのか

19 バイポーラトランジスタのキャリア蓄積効果

20 どこか一つは鳴らせるたほうが良い



1 gmこそすべて

  どんなオーディオアンプであれ、どのような仕組みで音をだそうとも素子のもつgmを
利用して増幅していることになります。gmは裸利得を生み出す源泉であるばかりでなく、
NFBのリソースであり、定電流性、定電圧性を作るのにも利用されます。

  

 (訂正) 最近話題のデジタルアンプは違うようです。



2 0で乗算しました

  オーディオで問題になるのは、gmがゼロとなる場合です。プッシュプルでB級を採用した場合
ゼロクロスでのgmはほぼゼロになります。



  ここでの裸利得はゼロしたがってNFBもゼロとなり、エミッタフォロアの場合は電流帰還が
かからなくなり歪みがそのままでてくることになります。

 実際の出力段ではAB級が用いられることが多いのでここまでにはなりません。




3 素子のgmをそのまま生かす回路とは

  理想のgm特性を持つ素子はありませんが、局所的には直線とみなせることが多いので
NFBを用いて振幅を制御してやると総合特性は直線化してきます。

  A級シングルアンプの利点はgmの大きなスイートスポットを用いて、信号の合成は一切行わ
ず、NFBの働きで直線性を確保するといった素子のgmをそのまま生かす設計ができることです。

  画期的なgm特性を持つUHC−MOSの登場は大きな可能性を持つと考えられます。






4 余計なことはするな

  これまでの議論を総合すると、ピュアな増幅のためにやってはいけないことは

  a) gm特性の湾曲している部分を使うB級増幅

  b) 特性の揃っていないコンプリメンタリー素子を使ったA級増幅

  c) 差動回路の両方の出力のカレントミラー合成

  d) 差動回路の出力を用いる完全対称合成

  e) 特性を劣化させるIV変換
 


   これらをすべて回避したアンプが完全アンプということになります。(FETの場合はIV変換がどう
しても必要なので、UHC−MOSシングルアンプになる。)

  良さを実証するには、完全対称アンプと完全アンプの一対一比較を行います。





5 極意ブレッド&バターシステムとは

  Webmasterはオーディオ技術を真空管の良さを味わうため(A)と純粋な増幅を実現するため(B)に
 用いることを信条としていますが、どちらにもあてはまらない現象に遭遇することがあります。

  <フルトヴェングラーの再生>

  チェリビダッケの美しい響きに慣れた耳でフルトヴェングラーを聴くと、その演奏が同類のもので
あることがわかります。が、しかしこの1949年の録音で聴けるのはかなりヒステリックな弦楽合奏で
あり、ややましな木管パートということになります。Bではアラをさらけだしてしまうし、Aでもやはりだめ
なようです。
  
  こういう場合は一切手を加えていないCシステムを用いて、余計な感情は排除してただひたすら
忍耐して聴きます。すると2楽章あたりから音楽に没入してきて音質のことはほとんど気にならなく
なります(耳の馴化)。むしろAシステムだと元がいいだけにいつまでも音質が気になるのです。

  <Cシステムで最良の結果が得られるソースがある>

  Cシステムとは実は某高級車純正のパイオニア製カーステレオなのですが、シスコンにもあてはまる
かもしれません。

  衝撃的だったのは宇宿允人指揮の歌劇 後宮よりの脱出 序曲がいかにもみずみずしく生き生き
と鳴ったことでした。これさえあれば他のオーディオはいらないと思わせる程です。他にもアストル ピア
ソラのすべてなどもいい印象です。

  Webmasterの推測では、高剛性と甘口トランジスタアンプとピュア電源と軽快なスピーカーが良さの
原因かと思います(ホームオーディオでは実現不可能か)。





6 ハイブリッドアンプの陥穽

  真空管とトランジスタを組み合わせて、NFBをかけるという考え方には少々問題があります。
半導体の場合利得が大きすぎるので、NFBで振幅制御を行わないとどうにもならないことが多いわ
けですが、真空管はそうではありません。ほとんど無帰還でなんとかなります。

  ハイブリッドの場合トランジスタに合わせてNFBを多く掛けることになりますが、これでは
真空管の広い電圧特性のごく一部しか使わないことになります。結果として真空管の味わいに
乏しいアンプができあがることになります。

  真空管は真空管どうしでゆったり使うのが良い結果を期待できそうです。





8 Cシステムをさらに追究する

  パイオニアのカーコンポがハイエンドピュアオーディオを上回る音をだすという事実からいくつ
 かの教訓をうることができます。

  1 本当にいい録音のオーケストラCDは皆無といって良い。

  2 木のエンクロージャーではオーケストラの音の重なりとエネルギーを分解しきるのは
    無理。

  3 バッテリー+オルタネーターという仕組みは想像以上に優秀な電源では?


   解説

      現にいままで聴いたことがない位いい音がするパイオニアカーコンポであるが、他の
    オーケストラCDを聴くと普通にきこえる。宇宿允人のCDのときだけそのような音がするの
    である。したがってこのCDをリファレンスとして使うことができる。

      車は鉄のフレームを人工皮革でダンプした構造をもち、左右のメカニカルアースも万全
    である。これは部屋ではほとんど実現不可能なことなのである。フォステクスのユニットの
    ように振動板をいかにハイスピードに設計しても、箱が柔らかければスピードは死に音はに
    ごるのである。したがってユニットのスピードはほどほどに、箱の剛性を上げるという手法が
    必要であると思われる。

     CDプレーヤー、アンプ、スピーカーユニットといったパーツはむしろピュアオーディオのほう
    が優秀なはずなので、それ以外のところで差がついていると考えるべきである。
  
     3は充電下の鉛バッテリーという構成で実現できるかもしれない。




 9 FE83恐るべし

   振動板が軽くて磁気回路が強力なユニットは車のF1に例えられます。F1は俊敏で速いですが、
乗り心地は最低です。一方セダンでは乗り心地は良いですが、操縦性、加速性能はそこそこで、最高
速度だけはパワーでなんとかなります。
 
 ここで振動板の重さを mo 、駆動力の強さをBLと考えてみます。BLIが加わる力ですから、
この比(BL/mo)が大きければ大きいほど変位ゼロにおける加速度が大きくなると考えられます。

   mo BLproduct BLproduct/mo
FE83E  1.39     2.98    2.1
FE103E  2.6    4.42    1.7
FF85K  1.8    4.33  2.4
FF125K  4.0   6.9  1.7

  FEシリーズは性格としてF1のようなものと考えていいわけですが、サイズが小さくなれば
なるほどその性格を強めてゆきます。FE83の微小信号の再現性(音場感につながる)は
一聴の価値があります。



10 木のスピーカーではオケが濁る?

  リファレンスのCD(宇宿允人)を室内のシステムでかけると一聴して音に透明感がないのが
わかります。車で聴けるほどの音の分解能がないのです。

  さて困ったことじゃとなるのですが、元々室内のシステムも透明度の高いもののはずです。
事実オケ以外では極めて透明な音がします。

  ソースやアンプのせいではないとすると、やはり木のエンクロージュアが音の分解能を悪くして
いると考えざるを得ません。木だと音響エネルギーが小さい場合は余計な音をださず、美しく鳴らす
ことができますが、ハイスピードで大きなエネルギ−では音がくずれるのだと考えられます。

  ハイスピードで豪快な音のするバックロードでも木で作っている限り剛性不足から逃れられない
と考えられます。




11 ハイスピード金属エンクロージャー


  パイオニアの8cmフルレンジユニットを買いに行ったとき、某所にてスーパ−ミッドAL
スリムというスピーカーを聴かせてもらいました。



  こんな構成になっていて、なんとボディがオールアルミです。わたしの探していた高剛性
ピュアオーディオが実在していたので驚きました。

  たまたま持っていた
宇宿允人とN響のプロコフィエフをかけてもらいました。

  オケの咆哮から爆発へ、その直後の静寂まで見事に音に変換してしまいます。これには
脱帽しました。




12 美しい音をだす技術

  きめの細かい音色の美しい音をだす方法があります。それは簡単に言うと、スピーカーの
振動板を吟味することと真空管を使うことの2つです。

  例をあげるとフォステクスの紙コーンは軽くて反応は優れていますが、紙の繊維がこすれる
音が発生するのでいわゆる紙くさい音になります。ユーロのユニットは音色が吟味されています
が、磁気回路を工夫しているわけではありません。振動板やその周辺にノウハウがあると思われ
ます。

  また真空管を用いるといともたやすく、とろりとした音の感触や、密度の高い音を得ることが
できてしまいます。半導体だとどのようにやってもそういうことはできないのではないかと思います。
設計によってどんどん透明で情報量の多い音にすることは可能です。また柔らかい音、深みのあ
る音にしてゆくこともなんとかできそうですが、半導体ではそこまでです。




13 個別の楽器の際立った音での再生

  これはフォステクスの出番です。軽くて反応の良い振動版、強力な磁気回路。これにDCアンプ
を組み合わせるととても立ち上がりの良い、音場感抜群の装置が組めます。

  楽器を限定すれば音色の違和感も気になりません。ギター、太鼓のようなもの、フルートのような
振動板の質量がゼロに近いものなどでは真価を発揮します。

  FE103はギター、太鼓のようなややヘビーなものが得意です。FE83はフルートが極めつけで
す。

  バックロードとDCアンプの組み合わせは、ルネッサンス音楽や現代音楽のようなダイナミック
レンジが大きいソースや、火器のようなものに向くと考えられますが、世の中にはもっとすごいこと
を考える人がいます。




14 オーケストラのエネルギー感の再生

  カーコンポでは比較的容易に実現してしまうのですが、ピュアオーディオでもそれに準じた
ことをしてやる必要があります。

  まずコーンが空気を押す時の反作用をどう処理するかが課題になります。



  コーンに加わった大きな力は磁気回路を経て、フレームに伝わり、エンクロージャーに
かかります。まずはコーン紙が変形しにくいものである必要があります。大きな力に対し
動きにくいためには、磁気回路の質量が大きいほど有利になります。デッドマスを加える
のはこのためです。最後にエンクロージャーに力が伝わりますが、エンクロージャーの質量
が効いてくるためには、途中にスポンジのような力を吸収するようなものがあってはいけま
せん。もしそれが木だと瞬間的にそうなる可能性があります。

  スピーカーの質量とエンクロージャーの質量が剛体で結合されていればそのようなことは
起こりません。また結合面積が大きければ変形も少なくなります。



15 DCアンプの作り方

  極意というほどのものではありませんが、

  1 直結回路で、

  2 ゼロ電位出力からDC帰還をかける

  こういったことを守ればそれはDCアンプです。(無帰還というのはちょっと難しいで
しょう)

  出力をゼロ電位にするのにいろいろ方法があり、帰還の掛け方にもいろいろあり、
素子にもいろいろあり、プッシュプルでもシングルでもよろしいというのでたくさんのDC
アンプが作れてしまうわけです。

  どれが良いかというのはひとつのテーマではありますが、なかなか結論はでないと
思います。やさしく作れて自分に合ったものをというのがこのホームページの趣旨で
あります。




16 アンプの実特性

  アンプの周波数特性はフラットなのがあたりまえで、比較はほとんど無意味だと思われて
いますが、スピーカーを鳴らしたときの特性はアンプによってかなり差がでることがわかりました。


  FE103密閉箱+ヤマハティファニー7



  FE103密閉箱+完全アンプ


  あばれが押さえられています。理由はいまのところ不明です。

 




17 銘機FE103

  長岡鉄男氏の名作にカプセルというFE103用のスピーカーがあります。使い方によって
密閉、バスレフ、ダブルバスレフの3通りの鳴らし方ができます。

  以下引用(音楽之友社 こんなスピーカーみたことない図面集編)

   〜動作の違いによる3つの音は一聴して違いがあり、密閉(ダクトを下向きにしてスタンド
  にのせればよい)とバスレフでは、密閉の方が純度が高く、音場は広く、バスレフの方がのび
  のびと鳴るが、音場は縮小する。〜

  引用終わり

  この文を読んであっと思いました。筆者は毎日FE103密閉を完全アンプで鳴らして聴いており、
 どうしてこんなに音がきれいで音場が広いのであろうかと不思議な印象を持っていました。
  機器をいろいろ変えたあとにこの組み合わせに戻すと、やっぱりこれが最高なのです。
  
   FE103はピュアパルプのコーンで素材に混じりけがありません、センターキャップにも細工
  がなく、無理に高域を伸ばしたりしていません。インピーダンスカーブを見ると、foでの山は大きく
  高いので、駆動力が大きく、ダンプされていないことがわかります。

   こういうスピーカーを密閉で鳴らすということは、低音は不足しますが音の純度は最高になり
  ます。これを最高純度のアンプで鳴らしていたということだったのです。


  周波数特性(完全アンプ使用時)


  インピーダンス特性






18 何故シングルアンプが自然なのか

  音波をある点に於ける気圧変化と見たとき、一気圧を中心にして増減します。決してゼロクロス
してマイナスの気圧になることはありません。これはA級シングルアンプとよく類似しています。アン
プの場合、このときの波形は上下非対称になります。(偶数次歪みが主体)

 一方プッシュプル回路では終段での入力信号は必ずゼロクロスしてマイナスに振れますが、この
ときの出力波形が上下対称になります。(奇数次歪みが主体)

  両者を聴いたときに自然な感じを受けるのは前者だと思いますが確証はありません。プッシュプ
ルでは偶数次歪みの打ち消しが起こるので、総合歪率が小さくなりますがこれはメリットといえるで
しょうか。

  自然音や楽音は初めから上下非対称に歪んでおり、これを全く歪みのない装置を通して聴く
場合は問題はありません。またシングルアンプのような歪みが加わった場合も問題は少ないと
思われます。しかしプッシュプルのアンプで聴くと場合によっては自然界の音に聴こえない可能性
が生じます。(が筆者もそういう経験があるわけではないので単なる理論的な考察です。)





19 バイポーラトランジスタのキャリア蓄積効果

  バイポーラアンプがA級で動作していれば問題ないのですが、概してハイパワーアンプはAB級
です。したがっって終段トランジスタはスイッチングしているので、キャリア蓄積効果によりカットオフ
付近で余分な電流が流れてしまいます。

  これも音として聴いたことのある人は極めて少ないと思われますが、必ず起こる現象です。方舟
でMOSのアンプをバイポーラに変えたときの微妙な変化がこれに相当するのではないかと推測さ
れます。








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