1 電流ゼロの定電流回路?
まず最初に考えるのは電流ゼロの定電流回路です。NPNトランジスタの特性は
このようなものですから、
Vbe=0.48VとなるようにR1、R2を選択します。
つぎに同じような考え方でPNPトランジスタの回路を用意します。
このふたつの回路を合体させると、
これがB級プッシュプル回路の基本形です。(アイドリング電流ゼロ)
おそらくこのような電圧-電流特性になると思われます。(ずいぶん歪みが多い
ですね)
附記) 実際は100%の電流帰還がかかるため、直線特性になるのである。
上記のような特性は、コレクタ出力をカレントミラーで折り返して、電流
合成した場合に実現する。
2 100%電流帰還の効果
このようなB級プッシュプル回路で、
Vbe=ほぼ一定であることから、
こうなることはほぼ自明なのですが、なにか物足りません。
電流帰還の考え方で説明できないのでしょうか。
まずRL=8Ωとして、8Ωの勾配で直線を引き、左右反転したものを用意
します。(何故ならRLの電圧降下+Vbe=Vin)
Vinをa,b,cというふうに増加させると、直線と電流曲線の交点が、そのときのVbeと
Icをあらわします。
次に、Vout=Vin-Vbe
であるので、まずVinをVout側に転写します(緑の直線ay')
それから、各電圧でのVbeを差し引きます。(xx’、yy’)
a,x,yを結んだものが、Voutであり、電流帰還100%の効果の意味するところ
になります。
K1056で実際に作図してみました。
この図ではバイアスはほとんどかけていませんが、実際は0.25Vほどかけるのが私の
好みです。
3 上下対称回路のいろいろ
コンプリメンタリー素子を用いた上下対称回路はいろいろ考えられます。
これはコレクタ出力をプッシュプル合成したもので、ゲインを得るために用いられ
ます。
これはバイアスに工夫をした、エミッタフォロアです。前段バッファにも使えますし、
出力段にも使えます。
これらはシングルエンド入力、シングルエンド出力なので自由に組み合わせて
使えます。
例として、
このようなアンプが成立します。このようなアンプをシングルエンド結合プッシュ
プルアンプと呼ぶことにします。
4 バランス結合プッシュプルアンプ
よくある差動二段アンプもプッシュプルアンプの仲間です。差動アンプ自体がA級
プッシュプル動作をしているからです。
このように内部でバランス伝送しながら増幅しているアンプをバランス結合
プッシュプルアンプと呼ぶことにします。
すると次のようなことが言えると思います。
a)上下対称アンプは、純粋なシングルエンド結合プッシュプルアンプである。
b)完全対称アンプは、純粋なバランス結合プッシュプルアンプである。
c)金田式GOAは、バランンス結合アンプと、シングル結合アンプの折衷である。
これは上下対称アンプの例です。回路は整然としていますが、対称性の良いコンプリ
素子は現実にはないので、作ると特性の非対称性に苦しみます。
これは完全対称アンプの例です。素子のマッチングがとりやすいので、高精度の対称
アンプが実際に作れます。
これは2段目でシングルエンド合成し、それ以降はシングル結合アンプになって
います。上の二つの中間の性格を持ちます。
この3種のパワーアンプをゲイン10倍に設定してつくり、ヘッドホンで無信号時の
リップル音を聴いてみればその違いを確認できます。
いちばん少ないのは同相除去比の高い完全対称アンプということになります。
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