長岡鉄男とMOSアンプにまつわるあれこれ


スワン向きのアンプ

  あのスーパースワンに使える市販アンプはあるのだろうか?私の考えでは、ごくわずかではあるが
そのような機種は確かにある。

  日立のHMA9500IIならなんの問題もないであろう。これこそがオリジナルといえるくらいスワン
と関係の深いアンプであり、スワンの能力を100%だしてくれるおそらく唯一のアンプなのである。



  で、その後どうなったかといえばいろいろなアンプが登場しては方舟でテストされ評価されていった。

  メーカーもMOS FETアンプには意欲的で、出たアンプはかなりの数にのぼるだろう。そのなかで、
MOSのよさがフルに出ていると評されたアンプが一つだけある。

  Sansui AU-α607 MOS PREMIUMである。



 ちょっとこれでフルレンジバスレフを聴いてみた。現在流行中の8cmポリプロピレンのやつである。

  低域の歪みやQの高さから来る緊張感は致し方ないが、そのほかのパフォーマンスではスワンと
ほぼ同等である。

  この音はどうだろうか。ソースの情報が途中で失われることなく全部でている感じ(結局は感じにすぎない
のだが)は、MOSアンプとフルレンジの組み合わせでしか味わえない。

  歪み感がなく明るく散乱するという音である。しかも低音もしっかり出る。さすがメーカー製重量級アンプ
である。

  しかしこのアンプはもう生産終了であり、これでさえ手に入れるのはかなり難しい。

 ここで音質比較のため、新作kabutogani IIアンプをつないでみた。

 これで今のに匹敵するような音がでてくればもうけものである。なぜならこのアンプは現在入手容易な
部品で安価に製作することができるからである。

  聴いてみると、低音は少し負けてはいるが、高域ではさらに鮮度が高くMOSらしい音がしている。
自作の場合はどんなふうにつくってもだいたいMOSらしさはフルに出るのである。

  さらにKabutogani I も試してみた。

  これはμA741の音を受けつぎローノイズにした4559を電圧増幅段に、HMA9500II のMOS−FET
直系のK1056をパワー段に使った音の良いアンプなのだ。

  こちらのほうは音の奥行が深くさらに繊細な音がする。Kabutogani II のパワー段は K1529なので
明快なMOSらしい音がしており、窪田氏がぱっと空間に広がる音と評したMOSの音がこれを聴けばと
てもよくわかる。

  スワン向きのアンプがもうどうしても手に入らないという人は、1年くらい修行してKabutoganiシリーズを作れる
ようになるのが、意外と早道なのかもしれない。

  Kabutoganiシリーズはともすれば絶滅しそうなスワンを救うために企画されたものなのである。

      Kabutogani I


現存スワンは減少中か

  スワンの絶滅傾向が著しい。その理由としては、重く場所をとるサイズがある。それにFE108ESIIも評判が悪い。
こういっては何であるが、やはりオリジナルのFE108Sがベストであろう。紙くささが云々されることが多いが、それは
高度なFETアンプを持っていないからである。高度なというのにはそれなりに理由がある。

  どちらにしろスワン系フルレンジは高域は分割振動であるから、超低歪みアンプと小さい入力が基本である。
うまく使いこなせば、分割振動の高域はそれなりに低歪みだし、散乱するキャラクターはむしろ快いものである。

  低域の歪みを考えると8cmは敬遠したい。8cmといえども高域は分割振動であり、10cmと大差はない。
むしろ大差があるのはノーマル分割振動系のFE88系とメカニカル2ウェイ系のFF85Kである。FF85Kは三次
歪みが明らかに少ない。

  Tang band系8cmをバックロードに用いている例をみかけるが、速度特性フラットで鳴らすのが基本という
バックロードの原則からすればQ=0.25くらいは欲しい。FF85Kでも電流正帰還をかけなければ駄目である。
Tang BandはだいたいQ=0.6くらいのものが多くとてもバックロードには無理と思う。

  20cm系は要するにガツンとくるのが持ち味であり、高域はそれなりのものがついていればよく、スピード感
重視でよいと思う。


  スワンの歴史

  1986年 別冊FMfanに掲載 スワン D−101 FE106Σ

  1992年 スーパースワン D101S FE108S

  1999年  生みの親である長岡鉄男氏逝去される


  空気ボウフラの歴史

  1992年 限定ユニットFE108Sを購入して以来、スーパースワンの製作を迷いつづける。

  2004年6月  逆ホ−ン実験スピーカー プラナリア製作



  この胴体を利用して製作

  2004年9月 バックロードホ−ン 空気ボウフラ製作
 


  片手で持ち上がるくらい軽量しかも場所をとらない。FE108Sをはるかに上回るQ=0.1という
速度特性。音は抜群でバスレフを聴く気がしなくなるほど。

  2005年1月 FE108S版空気ボウフラの実験(予定)



V-FETからMOS-FETへ

 1974年ごろ長岡氏の常用アンプはソニー3200F、テクニクスSE−9600
であったという。そこへソニーTA−8550がV−FETアンプとして登場し、あまりの
音の違いにショックを受けたそうである。透明、繊細、クールでワイドで、高分解能という
形容であったが、氏はそういう音がもともと好きだったのだろう。

 その後ヤマハB−1を経て1977年にLo-D HMA9500に落ち着いたことはよく知られた
事実である。HMA9500については、ワイドで繊細で、シャープで色気があり力強さもあり、
音場も広いという表現であったが、その後ダイナミックテストなどの評価でこういう表現
をされたアンプは無かった。



HMA9500からHMA9500IIへ

  長岡氏の常用機がSY−88、HMA9500だったころ、氏は1.3μのラムダコンを、
パワーアンプに4個投入し音の変化に驚いたと書いている。曰く、fレンジ、Dレ
ンジの拡大、情報量倍増、解像度倍増、余韻が倍以上長くなり、レコードのノイズが半減、
音像の大きさが半分ぐらいに引き締まり定位が明確になり、透明度倍増、ツヤと色気と迫力
倍増・・・・という変化であったという。

  これがHMA9500の改良に生かされたことは間違い無い。HMA9500IIが発売されたのは1980
年2月だが、メーカーの広告に「微妙な音の差まで追求した高品質部品の採用」とあるのはこの
へんのことを指しているのであろう。

  私が確認したところではHMA9500IIにはラムダコンが10個入っている。



終段石と音の関係

  長岡氏ともなればHMA9500と同じ石を使ったHMA7500,HMA4500,HMA7700,HMA7900もテスト
し音を確認している。他の4機種はHMA9500と音は似ていないという。かなり後で発表された
評価は、優雅で肌ざわりのよい音であったが、躍動感エネルギー不足であるというものだった。

  メタルキャンのK135を使ったものには他にアキュフェーズのE303とP260があ
ったが、P260のほうは、シャープでエレガントでダイナミックと評されている。P266
はP260の後継機で、記事ではMOSのよさが発揮されたとある。

  アンプの音を決める要素は電源と部品とコンストラクションというふうに言われており、
終段の石だけでは音は決まらないのである。



HMA9500IIの後釜

 1988年まだ氏のHMA9500IIが現役で、少々くたびれたかなといった感じの頃、これに
かわるMOSアンプがないか検討されたことがある。当時は終段石がK405の時代で、サン
スイのB2101MOS VINTAGEとヤマハMX−2000が候補にあがった。音は辛口と甘口
に別れていて対照的だった。結局B2101の方が希望の音に近い音だったが、バランス
出力のアンプであったためにメインには採用されなかった。ただスワン用には用いられて
いたかもしれない。

  1997年頃とうとう氏のHMA9500IIが故障した。そのとき後釜を何にするか検討
されたのであるが、比較されたのはアキュフェーズP−700、ラックスマンM−08だ
った(どちらもバイポーラ)。

  低域の量感、ゆとり、音の伸びでP−700、締り、高域の切れ込み、スピード感で
M−08ということで暫定的ではあるが、M−08が採用された。

  しかしやはり音場感、高域の華やかさではHMA9500IIのようにはいかなかったようである。

  1998年には、プリがC−280VからC−290Vへと変わった。そのときは、
パワーアンプはすでにラックスマンM−10になっていた。
 
  1999年が氏の最後のダイナミック大賞だった。パワーアンプのグランプリはペア
150万円のラックスマンB−10IIであった。このアンプ、氏の評価では、暴れん坊の
BHスピーカーをしっかり捕らまえて、信号どおりに動かすとある。まさにMFBのよう
な効果を言っているのである。解釈によっては電磁制動のみではこのくらいパワーがない
と速度特性フラットでスピーカーを駆動できないということが言えるかもしれない。

  このアンプ繊細さもあり、スーパースワン、スーパーレアで驚くほどのパフォーマンス
だったというから後釜になりえたのかもしれないが残念ながらこれもバランス出力アンプ
なのでメインには使えないはずである。

  それにしてもスワン用アンプが150万円では豪華すぎて採用しにくいと思う。

  MOSのシングルプッシュプルで電流正帰還をかけたくらいのものが切れ込みと制動力
を兼ね備えたアンプとしてスワンには有望なのであるが、それは氏の存命中にはとうとう
現れなかったのである。