追憶のコンパクトカセット
1 はじめに
iPodの先にはなにもない。もう音楽が消滅するまでがiPodの時代だ。MDに駆逐されiPodにとどめを刺されたコンパクト
カセットだが途上国ではまだ主流だという。
しかし神のようなカセットを次々に世に送り出していた日本のメーカーもカセットテープ事業部は今は影も形もない。その消
えっぷりは見事である。TDK、マクセル、ソニーの作り出したテープは今では世界遺産のような存在かもしれない。
幸い本場である日本には過去の遺産として現物がまだ姿をとどめている。みなさんもあまり急いで処分しないでください。
2 My audio cassette life
私はラジカセをほとんど買ったことがない。カセットデンスケをアパートで使いながら、帰省の際に新幹線に持ち込みそれで
聴いていたくらいであるから、Walkmanのようなカセットプレーヤーがでたらそれに移行した。
また車に乗るのが好きなほうなので車の中で聴けるカセットテープは必需品であった。
カセットライフを送る中でひときわ光彩を放っていたのがマクセルUD Iである。ロックなどを録音すると低域が力強く高域も
不足なくでる。その頃ハイポジションのTDK SAなどがあったが高価なのとそのわりには音の厚みがないのが気になってそれ
ほど使わなかった。
ソニーのDuadはさすがに本格的な音だったが常用とするには高価すぎた。ノーマルポジションのBHFがさわやかな音がして
気に入っていた。
TDKのMA−Rはアルミダイキャストを多用したカセットハーフでメタルテープだった。ひとつ購入してお気に入りのアルバムをいれて
聴いていた。そのテープも今はないがMA−XGを購入しておいたので復活させてみたい。
TDKのADはマイルスを起用した広告で売り上げを伸ばしていたが、ややきつい高音が私の趣味にあわないので敬遠していた。
がその後手に入りやすさから結構多く使っている。
1980年代半ばにはTDK AD−Sという透明ハーフのADが登場した。何本か所有しているが、ハーフの違いか結構鮮烈な音がでる。
このようにしてカセットライフが過ぎていった。日本のカーステレオはロンサムカーボーイIIやカロッツェリアなどがあり最高水準の
ものだったので音はほとんど満足できた。
3 DD Quartz Walkmanの挫折
最後のハイエンド機種であるWM−DD9を製造中止の在庫処分のとき3台購入し来るべき冬の時代に備えた。その頃ソニー
からはカセットテープの最後の華といえるスーパーメタルマスターが発売されていたので奮発して購入しておいた。なんと60分で1900
円もする。
これでアナログの最高峰を極めればMDは目ではないと思っていたので究極のテープをつくり聴いてみた。が、それは結局期待に
そぐわないものであった。
WM−DD9はわずかだがワウ・フラッターが聴いたときにわかる。それに搭載されているドルビーCが正確に働かない。これらの
欠点によりDATに迫る音質は得られなかった。
あとでMDを購入しやはり負けていると思った。
4 日本のテープ技術
TDK ADとは
T
Dだとヒスノイズが若干気になるレベルだったので迷わずAD以上のクラスを選んだ。これを見るとハイ上がりな特性が伺われる。
一方SAにはこのような技術的特徴がある。
かなり後期の資料だがTDKのテープのグレード
AD−Xの資料
SONYの新世代ハイポジション
これは猛烈に聴いてみたいテープであるが残念ながら持っていない。しかしこの磁性体はCDixIIにも採用されている。これなら
何本か持っている。
いや素晴らしい。神の様な音だ。SONYのテープとDD QUARTZ WALKMANの相性は抜群によい。TDKではまあまあ、マクセル
UD Iでは駄目駄目。まあマクセルはカーステレオで聴けばいいか。
他の資料
5 ハイクラスノーマルポジションの試聴(以後すべてWM−DD9、iPod付属のイアホン、オキシライド電池での試聴、ドルビーはオフ、ソースは
昔録音したものをそのまま聴く)
TDK AD−X 、AR 、SONY HF−ES
あたりが相当する。AD−X、HF−ESは資料によるとコバルトコーティングタイプらしい。とするとマクセルのXLI−Sも
仲間に加えておきたい。これはエピタキシャルという意味だからである。
昔オープンリールだった頃、ソニーのSLH、TDKのSD、マクセルのXLがあったような気がする。私はほとんどSLHを
使っていたが(Super Low-noise High-outputの意味)。
XLI−Sがクラシックで音の伸び、厚みが感じられて心地よい。楽器の音色がよく再現されていると思う。
HF−ESはもう少し明るい音で出力が高そう。弦は少し荒れる感じがする。クラシックで充分使える。
AD−X ジャズのハイハットの切れ込みが素晴らしい。ピアノもいい。相当ハイ上がりなのでクラシックではどうかと思う。
少なくともジャズで使うのは正解。
AR WM−DD9で聴くかぎりは相当ハイ上がりに聴こえる。ポピュラーでも線が細く感じる。クラシックは無理だろう。
番外編としてAXIAのK1も加えてみる。今のところ技術情報は無いが、ダブルコーティングと書いてあるので高級タイプである。
ポピュラーに使うと秀逸。エネルギー感と切れ込みが両立している。クラシックでも音を分解して聴かせてくれる。
6 各社新世代ハイポジを聴く
マクセルUD II 高域華やかに分解して透明感あり。低域やや薄い。
ソニー CDix II 基本的には同じかなあ。音色は若干違うようだ。
TDK SA クラシックだと弦が細身になるしポピュラーだとベースが薄くなる。どういう用途で使うのだろうか。
番外編として旧SAを2本聴いてみる。SAとimproved
SAという表示がある。おそらくFFヘッドのカセットデンスケで録音
したものと思うが古い録音っぽい音だ。SAらしくあまりダイナッミックな感じはでない。
7 TDK CDing I, II,IVを聴く
メタルテープが絶滅して久しい魔界にある現在ではコンビニで I ,II を見かけることはあっても IVはどこにも無い。
ハーフを良く見るとIVはちょっと違うが基本的には全部同じ。共通化してコストダウンしたのでしょうね。
CDing IV 申し分ない。マスターテープといっていいくらいバランスが良い。
CDing II パーカッションがさわやかである。SAと同じグレードかどうかはよくわからない。SAと同様にオールマイティとは
いえない性格。
CDing I これがADと同等なのかAEなのかがよくわからない。あーでも手元にあるAEと比べるとハーフが殆ど同じですね。
ヒスノイズも感じるしこれはAE同等版でしょう。切れの良い明るい音。エネルギー感もある。
8 TDK各世代ADを聴く
長く生産が続いたADだが終わり頃になってパッケージがかなり変わった。どういう意味があるのだろうか。
最初期のはハーフが鳴るのが聴こえる。音質は3代目まで同じと思う。後期のADはハーフの質感が落ちる感じがするが
音質はやはり同じように聴こえた。
WM−DD9で聴く限りだが、高域がきつくバランスが悪い。音楽と呼ぶのはちょっとためらわれる。ほとんど全部がそうだ。
UD Iもバランスがおかしいので相性があるのだろう。
AD−Sはワイドレンジで問題なく楽しめる。
9 ソニーの標準品各種を聴く
HF−Xはバランスがよくマスターテープのような良さがある。デザインがこれと異なるHF−SとHF−ESがあった。時代が違うの
だろうが前者はさわやかだが色づけがあり、後者はもらったテープなので評価不可能。グレードの関係が不明だがESのほうが上
だろう。
ソニーのX IIという最後期のテープがあった。Advanced
uniaxialとあるのでさらに性能アップか?神がかり的な音だ。
TDKのAD2というのがあった。最後期のものだろう。ADとは別物でとてもさわやかで楽しめる。
10 各社ハイエンド品種を聴く
泣く子も黙るTDK MA−XG、ソニー スーパーメタルマスターを聴いてみる。ソニーのUXマスターもセラミックハーフ入りなので
ハイエンドだ。同じセラミックハーフであるデンオンのMG−Xも仲間に加える。
UXマスターはソニーのハイポジションの最高峰の磁性体だと思うが聴いてみて驚いた。すでに所有テープ全種を聴いて特徴をほぼ把握
し終わっていたが、ここにいたって初めて音場空間が広がった。イヤホンの周りに広がるのだがちょっとの差ではない。精度と制振性を高め
るとこういう効果があるのか。
スーパーメタルマスターはこれになめらかさと透明感が加わる。
MA−XGはさらに自然に広がるのか広さを把握できない。無限遠までということかもしれない。
デンオンはドルビーCで録っていたためはっきりわからなかったが力作だろうと思う。
11 各社普及品を聴く
Axia PS−I は数が結構たまっているが元気のいい音。ワイドレンジと思う。
もはや古典TDK Dはフラットな特性だがノイズレベルがやや高い。これで楽しむのが通かもしれない。
SONY C90 90は収録時間なのでCと呼ぶのが正しい。古典カセット。ほこっりぽい感じで透明感がかなり落ちる。
素直なのびやかな感じの音で今聴くと好感がもてる。C60 高校時代のカセットか。しかも1と書いてある。今聴くとワカメ
状態のようだ。
まだ45分テープが出始めで高価だった頃、C60を2個買ってきてスプライシングテープを用いて40分と80分に分割する手法
を発明して人には言わないようにしていた。これが広まるとC60の価格が高騰する可能性があるからである。ある日大学の友人
にこのことを話したところ、誰もそんなことはしないと断言されてしまった。
12 太陽誘電 That'sを聴く
CD−Rで名を馳せた太陽誘電の品 Ph1
である。ポピュラーでは特に不満は無い。クラシックでもおだやかな音がする。
CD46という型番の無いような品種もある。聴いてみたがやはり不満はない。おおらかに鳴るし、カセット固有の音の硬さも感じる
しというところだ。市場そのものが終わってしまったので華々しい活躍は無かったと思う。
こうしてみるとSONYのテープを使う限りWM−DD9は高い能力を発揮することがわかった。私の場合マクセルとTDKの
割合が高かったので見誤ったのだった。音質はテープを選ぶことによってほぼ解決するが、ダイレクトドライブ、デュアルキャプ
スタインのメカニズムを誇るDD Quartz Walkmanの回転ムラが耳でわかるのが痛い。電源が1.5Vなのでトルクが小さい
のではないだろうか。
13 ソニーのメタルテープ各種を聴く
ソニーのメタルテープの種類は多く、スーパーメタルマスター、メタルマスターの下位には、ES-IV、Metal-XR、CDix
IV
がある。
資料に乏しいがCD ix IVのSSAは45m2/gとある。さらに微粒子となっている。
Metal-XR これは普及を狙った廉価なメタルテープかもしれない。今聞くとはっきりとわからないが当時聴いた感じでは
感度むらが感じられたような記憶がある。粘りのあるはっきりした低音、クリアーな高域。素晴らしい。
CDixIV このシリーズは最後期だと思うが、完成度は高くなっていると思う。
ES-IV ちょっと音がきついのだが、手抜きはないようで聴いた感じでは底知れぬパフォーマンスが期待できる。
TDKも聴いてみた。
TDK MA これは大量に購入している。安かったのは投売り状態だったのかも。とても繊細な音がする。ハイ上がりと
いっても良いかも。
TDK CDing IV
こちらのほうがバランスの良い音。かなり低いところまでよく出る。ネーミングだがあの堅物のTDKが
なんでここまでくだけちゃったのだろう?そこまで卑下しなくてもテープ自体の方がCDより崇高なもののように思うが。
14 MDの最高機種を聴く
SONY MZ−RH1はMD史上初めて録音済みMDからパソコンにデータコピーできる機能をもった機種である。本来なら
MDの記念として3台くらい買うところだが、データ移動用になら1台で充分という考え方もある。
メディアも値下がりがはなはだしく最後期には100円まで下がった。カセットテープの二の舞である。しかし今はiPodがあるので
誰も飛びつく人はいない。
音質は世間でも評価が高い。1GのディスクにCDをコピーして聴いて見ると確かにすみずみまで音が聴こえる。これと比べると
SPモードではところどころににごりが感じられる。
今の時点で評価するとHi-MDモードとDD Quartz Walkmanのメタルテープとでいい勝負だ。メタルテープでもヒスノイズははっきり
聴こえるが音の伸びと鮮度であまり負けていない。
15 日本のテープ技術 2
どうしてADと音が違うのかがこれでわかった。これならハイ上がりでもうるさくない。
でもまあ2層塗布はソニーが先ですから。
AR−Xのしっぽをやっと捕まえた。どんなハイ上がりなんだろうか。さすがにクラシックとは書いていない。
磁性体変わっているのか。
ノンポアというところがポイントですかね。
音の濁りを改善する手法を発見したのでしょうか。
C46で570円とは最高クラスの価格です。ハーフにもお金をかけています。
16 WM−DD9にとって鬼門のテープ
マクセルUD−I 不思議なことにエネルギー感がでない。高域もいまいち。それになんといっても回転ムラが出る。相性最悪といえる。
マクセル UJ 音はいまいち。回転抵抗のため止まってしまうことあり。
AD 高域バランス悪し。ジャズなら聴けないことはない。回転はスムース。
AR さらにハイ上がり。
SA いいところがない。適用範囲は現代音楽くらいか。ソニー、マクセルのハイポジションが素晴らしいのにひきかえどうも不思議。
17 WM−DD9で問題なく使えるテープ
マクセルUD-II まさに神レベル。素晴らしすぎる。
ソニー CDix II、X II, XS II 素晴らしい。
ソニー HF−X、HF−ES レファレンスとなるような深い音がする。
AXIA K1、AU-II これらのダブルコーティングテープは充分良さが出る。
マクセル XLI−S 能書きどうりの素晴らしいパフォーマンス。
メタルテープはまだ検討中。
これらのテープではスムースに回転し聴感上ワウ・フラッターの悪化は気にならない。
18 磁性体について
http://ja.wikipedia.org/ コンパクトカセット
に詳しく出ている。これによると試聴テープのうちマクセルUD-IIのみがマグネタイト核晶(Fe3O4)のコバルト被着酸化鉄だ。
>'80年代終期、この酸化鉄の代わりに前述のマグネタイトを核に用いたものもあり、日立マクセル、日本コロムビア等が採用した
(maxell/最終XLII-S,後期UDII)。
かつて一本のみ購入したEDは四酸化鉄(マグネタイト;Fe3O4)のものである。音の差は僅少と感じた。
>例は少ないが四酸化鉄(マグネタイト;Fe3O4)のもの
(TDK/ED)、
ARについても出ている。AR−Xの正体もほぼ判明。
>1980年代に入って開発された、γ三酸化鉄の生成時の内部空孔(ポア)をほぼ無くして磁気効率を改良した無空孔(ノンポア/ポアレス)
酸化鉄(TDK/初期AR,日立マクセル=maxell/初期UDI)及びそれのコバルト被着タイプ(前掲機種の後期型)がある。
松下からでた幻のテープもある。
>そのTypeIIIがほぼ死滅した1980年代中期、松下電器が「オングローム」ブランドで投入した蒸着テープが存在した。通常の塗布層の上に
更にコバルト磁性体を蒸着させるという、発想自体は極めてTypeIII的な製品だった(ポジションは当初TypeII、後TypeI,IVを追加)。蒸着により
従来の塗布方式を遥かに凌駕する磁気効率を得て特に高域特性を大幅に改善したものだったが、製造コストの高騰から来る価格設定の高さ
と、その強力な高域特性のためデッキによって相性の相違が激しく、短命に終わった。この技術は、後にビデオカメラ用テープとして開花するこ
ととなる(Hi8のMEタイプ、現在のDVC)。
かくしてお宝テープとDD Quartz Walkmanをゲットしていた私のカセットライフはもう少し続くのであった。
(終わり)