2015年の音楽生活6



映画 出所祝い (1971)

この日本的な映像美、やや奥行きのあるストーリー、これはヤクザ映画の名作と思われる。
ただヤクザ映画なので貨幣のように命のやり取りがあるし極端なほどのガチガチのしがらみが
ある。しがらみの中で生きて幸せになれるわけがないので登場人物たちはなるべくして不幸に
なっていった。だが上手く立ち回ってのし上がる者もいる。主人公役の仲代達矢が出所後に
遭遇する出来事に納得がいかなかったのだろう。最後に陰謀の首謀者達ををぶち殺すという
行動に出た。恩赦が重なって刑期が短かったのがこういう結末を生んだらしい。歴史の偶然が
作用したのである。



NHK BS インドパキスタン分離独立

1947年8月15日を期して大英帝国からインドとパキスタンが同時に独立する。その大混乱
を映像で見せてくれる。パンジャブでは騒乱が起こりカシミールでは戦争が始まる。今でも
カシミールは分断されているらしい。独立の立役者ガンジー、ネルー、ジンナー、マウント
バッテンが出てくる。独立自体は粛々と行われ民主的な政権も出来た。アフガニスタンより
だいぶマシなのではないだろうか。

考えてみるとこの時代の映像フィルムがこの場合は残っていて、満州、朝鮮の解放時の
映像が全く見れないというのが不思議である。満鉄映画によるフィルムや赤い月くらいでは
どうも見た感じがしない。



NHK BS カンボジア ポル・ポト政権 150万人の虐殺 (2005)

NGOが村を回り虐殺の証言を集めている。突然連行されたりトウモロコシの枝を折った
だけで殴り殺されたという。これらの証言は「ポル・ポト政権下の大量虐殺に関する国連報告
書(1999)」という文書にまとめられている。この番組はヌオン・チアというポル・ポト政権
NO.2の人物のインタビューと人々の証言で構成されている。

カンボジアはベトナム戦争のとばっちりを受けていたが親米のロン・ノル政権に対抗して
共産主義勢力が台頭する。これがクメールルージュで貨幣経済を否定する急進的な思想の集団
だった。クメールルージュは1975年に武装蜂起しプノンペンを陥落させるとすぐに200万人
の住民を農村に強制移住させた。1968年の文化大革命の下放政策をさらに先鋭化させたもの
のようだ。結局食糧の増産が上手く行かず責任転嫁の必要から反革命分子を作り出し処刑して
いったというのが大量虐殺の真相と推定されているが、さらに深い闇の理由があったかも知れ
ない。それは虐殺を終始否定したヌオン・チアの言葉を裏読みすると一つ思い当たることが
ある。

ポル・ポトが中国を訪問し歓迎を受ける映像が出てくる。この時中国からの軍事援助を辞退
したせいでプノンペンはヘン・サムリン率いるベトナム軍に速やかに制圧された。ポル・ポト
らは侵攻されるとすぐ山に逃げ出した。その後ゲリラ化して内戦になるがポル・ポトの死後
幹部たちは取引に応じて投降した。ヌオン・チアについてはカンボジア特別法廷に拘束された
後終身刑が確定している。



NHK BS ボスニア内戦10年目の真実 スレブレニツァ虐殺はなぜ起きたか

ボスニアのセルビア人勢力が隣国セルビアの支援を受け優勢になってゆく。ボスニアに
セルビアの秘密警察が送り込まれる。スレブレニツァで捕らえられた6人のイスラム教徒の若者
を銃殺する映像が残されていた。まず映像から犠牲者の身元が明らかにされた。セルビア共和
国の大統領は謝罪、ハーグの国際裁判所で審理が行われる。撮ったのは秘密警察の隊員でその
ビデオが人権活動家に渡ったという経緯がある。

内戦勃発から1年後に国連が介入する。安全地域を設けて住民を保護する方針を立てたが
スレブレニツァに派遣された国連軍部隊が600人、補給路を断たれて400人に減少、そこへ
セルビア人勢力が侵攻する。スレブレニツァが包囲され国連軍の空爆が期待されたが空爆の
開始手続きには明石代表の許可が必要になっていた。インタビューでは明石代表が開始を遅ら
せた上に命令を取り消したという風に聞こえるがそこはやや曖昧になっている。セルビア人
勢力は国連軍と取引した上で住民をだまし討ちのように虐殺した。逃れようと山越えした住民
が先ほどの若者である。

その後NATO軍による空爆が実行された。



映画 森崎書店の日々 (2010)

古本屋の店主と美人の姪がひょんなことから生活を共にするようになる。店主は初老の
男でかつて放浪していたという。本とコーヒーが好きで街の生活を楽しんでいるように見える
がどこか陰があるようにも見える。出てくる人物は気のいい癖の少ないような人ばかりだ。
神保町の古本まつりの後で店主が告白する。でも別に大したことでは無かった。この男の
精一杯見栄を張る様子は貧しき人々のマカール・ジェブーシキンのようだ。姪の貴子は時々
心が不安定になるのだが店主の男は理由を聞き出そうとする。しかもその心の悩みに介入
しようとする。でもそれはどう見ても空回りだったようだ。経済的援助だけにしておけば良
かったのにと思う。やがて姪は出て行くことになるという切ない話だがこれだと淡々と出て行
くだけである。かたやモデルをやってきたような超絶美人、かたや大金持ちの俳優が演じて
いるのだから余裕たっぷりにしか見えないのである。


K180SEPPアンプはヤマハBー3の上位互換アンプとしてFE103SOLバックロードを鳴らして
いる。出力は十分だし透明度が凄い。長岡鉄男に触発されて蒐集したアナログ盤をゆっくり
聴いてゆこう。




No.001 メロディア C10ー17705ー6 (1982)30cmLP




大体日本にやってくるアーチストはお金が主目的なのだからそれを有難がって聴くのは如何
なものだろうか。絶対にやって来ないアーチストこそ本物なのだ。

構成はラトビアのリガ大聖堂のオルガンとソプラノのみというシンプルなもの。録音はオフ
マイク気味でエコーはたっぷりだ。オルガニストはOlgerts Cintins、ソプラノTatiana Sterling。
J.S.バッハとヘンデルのアリア曲集になっている。


No.002 Christphorus 74501 (1988)DMM 30cmLP

Tanze,Lieder und Fantasien / Bernhart Boehm (Blockfloete) , Jurgen Hubscher (Lute)



バイエル放送第3スタジオでのデジタル収録。ルネサンス期の作曲家7人とアノニマスの曲
からなるアルバムタイトル通りのLP。演奏も録音もすっきりしすぎているくらいだが選曲
はいいと思う。このデュオが来日したかどうかはよくわからない。


映画 ブラックホークダウン (2001)

ソマリア内戦時にアイディード将軍率いる民兵組織と米軍との間に起こった実際の戦闘を描
いた映画。戦闘は1993年10月に行われた。米軍はブラックホークとリトルバードとハンヴィー
を投入してアイディード将軍側の要人を拉致する作戦だったが反撃に遭い、投入戦力が決死隊
になってしまったという話。歴史観に基づく相手側の筋の通った考え方も述べられており人道
主義だけの介入側の論理はすでに破綻していると言って良いだろう。この後米軍は早々に撤退
し国連軍も結局撤退することになった。

戦闘の映像は素晴らしいものであり砂漠地帯の海岸の空撮映像が観れたし川の岸辺を走る
イノシシの姿も興味深かった。


泣いてたまるか 先生故郷へ帰る (1967)

東京で高校教師をしている主人公(渥美清)が故郷の宮崎に帰る。ハハキトクの知らせに
心は焦るが実は嘘で見合いが仕組まれていた。ムスッとする主人公だが相手は10歳くらい下の
美人娘(宮本信子)で心は少し揺れるのである。翌日高千穂峡でデートをするのだが彼女は
東京への憧れを熱く語るばかりで主人公とは考えが合わないようだ。正直なのか意地悪なのか
自分は東京にいつまでもいるつもりはないとデートの終わりに述べる。翌日お断りの知らせが
向こうから届いた。何にもなくて周りの強烈な干渉だらけの田舎の生活を心底嫌う若い女性
の正論と東京でかつかつの生活をしてみて田舎がいいと思う男性のこれも正論だが二つをぶつ
けても何も生まれない。身も蓋もない結末に脚本家(橋田壽賀子)が加えたのはお詫びの手紙
を添えた人形の贈り物だった。女性らしい気遣いで締めくくったのである。


泣いてたまるか 先生海で溺れる (1967)

この時代はビートルズのサージェントペパーズが発表された頃で中国では文化大革命が、
日本ではサニーとカローラが発売された頃に当たる。これから経済成長が起こってゆき日本が
変わるのだ。

生徒の合宿を引率する先生役が渥美清。話の筋は漁業組合と決まりを破る不良少年との
間に立ち奮闘する先生が友人家族にたかられたり反逆する生徒たちに海に落とされるという
ものだが面白いのは当時の行方アイランドの様子が実写で観れるということだ。今は廃墟の
このテーマパークの入り口のトンネル、フラミンゴ、プールが写っている。廃墟ファンには
一見の価値がありそうだ。

今回は男性脚本家なので正論を押し通す事はなく不条理に何とか耐えながら道を見出し
てゆくという話の展開が見られるのである。


No.003 Souvenir Aulos SOU 54 504 AUL(1986)DMM 30cmLP

SERGE VILLAT PIANO SOLO JAZZ IMPROVISATION



即興のピアノソロアルバムなので当然キースジャレットを意識しているだろうが聴きやすく
音質が良い。ラベルのような和声が聴こえたり速い部分はフリージャズのようでもあるし勿論
キースジャレットのような処理も出てくる。一枚のアルバムだが通して聴くと50分以上もあり
聴きごたえがある。


岡田英弘 著 歴史とは何か 文春新書 (2001)

中国の成り立ちを極力ありのままに見ようとする試みがなされている。中国に優れた文明が
起こったのは間違いないし集辺諸国に及ぼした影響も検証してゆくと重大な事ばかりだ。日本
は中国との交易が刺激となって沿岸部に住むようになり国が統合されて行ったと著者は考える
のである。これらは東南アジアで起こったことのアナロジーから導いてゆける。また思った
より中国自体は失敗の連続で国の体を成していない時代の方が多かったと指摘している。今の
中国が進んでいる道は日本がフランスやイギリスのような国民国家にあっという間に成って
しまってからは成功を収め続けているのを必死で追いかけている道に過ぎないと著者は言う。
だからウイグルもチベットも中国の一員として国づくりに協力邁進するのが当然であり国民
国家が完成した暁には米国をも超える国が完成するはずと考えているのである。これは思考の
途中に間違いがあるので決してそうはならない。


映画 冷静と情熱のあいだ (2001)

フィレンツェで美術の修復士の修行をするイケメンの男には昔の恋人、今の彼女、イタリア
人の女性修復士がまとわりついており決して幸せとは言えない。同僚男性の嫉妬から事件が
起こり日本に逃げるように帰ってくる。それにしてもナイーブ過ぎる。父親もドス黒いし友人
も軽薄だし昔の恋人は金持ちの外国人とくっついている。愛だけの男と建前だけの女、ダメな
者同士の組み合わせである。男はもっと悪くてもいいし女は実質を取るというのが安定する
組み合わせなのだ。わざわざこう云う組み合わせにしたのは作者が江國香織だからだろうと
思う。最後にどんでん返しがあって事件の犯人が判明する。犯人は女性修復士だった。時を
経てドオモで逢おうと言った昔の約束が叶うのは辻仁成の方のアイデアか。何かこの辺りから
サヨナライツカに似ているのだ。


(つづく)