LM3886革命と音色理論

  アンプの音色を支配しているのは一つには1kHzで見たときの各次高調波の様子であり、これは出力段素子と
その構成によりがらりと変わる。

   アンプの音色に関する基本法則

  第一法則 完全対称(SEPP)アンプでは三次歪主体となり、それ以外のアンプ(コンプリ出力段)では二次歪主体
         となる。

  第二法則 MOS−FETアンプはコンプリのばらつきが大きいため大きい二次歪のアンプになる。

  第三法則 バイポーラ(IGBT)アンプは奇数次歪が出やすいアンプになる。

  第四法則 二次歪の大きいアンプでもBTLにすれば二次歪はなくなる。

  第五法則 NFBが少なくて直線性の良いアンプは音場感の良いアンプになる。

  附則    偶数次歪主体だと音は甘口になり、奇数次歪主体だと辛口になる。

  もう一つの重要なファクターはもっと高域における歪の様子である。パスコンや位相補正で音が変わるのは
この領域の話である。残念ながら測定できないので理論も今のところない。もっぱら聴感がたよりである。

  


  LM3886は出力段がバイポーラで構成も準コンプリとすでに決まっている。したがって音を決めるのはパスコン
に限定される。



  このように低歪だがばらつきによって二次歪は出たり出なかったりする。奇数次歪もよく抑制されている。

  これがもしLM1875のような二次歪が多いアンプならまずBTLにしてみようと考えるがこれはこのままで
も良い気がする。

  試すことができるパスコンにはUΣ0.68μF、ルビコン1μF、東一T-CAP CU 0.1μF、V2A、ASCなどがある。

  これらを順に試していけば終わりである。


  実はこのような豪華なパスコン群は今では高級アンプでもお目にかかることはまずない。廃れた理由はカタログスペック
が同じなら高価なパーツはまず採用されないという企業風土にあるという。最近ではソニーのヘッドホン用ブースターアンプ
に通常では許可されない高価なコンデンサーが採用されたという話がある。

  NFBが効かなくなる超高域で二次歪があったほうが良いのかないほうが良いのか差動アンプから発生する三次歪なのか
などまだ謎につつまれている。

  終段の素子の周波数特性ではMOS−FETのほうがバイポーラより一桁くらい伸びているらしいので当然歪にも影響してくる
だろう。


結果

ASC 0.33μ

  最初に両chこれで聴いてみた。ミケランジェリのショパンを通して聴いたがひんやりとしてなかなか素晴らしい。
バイポーラはピアノが得意だと思う。

 以下は片chだけCを交換して聴いた。ソースは太田裕美のCD。

UΣ 0.68μ

  これはACSより引っ込む。奥のほうでACSと同じような音色で鳴っている。ASCのほうは音に支配力がある。
音が張り出してくるが悪くない。

フィルムコンなし 

  電解コンデンサーのみが入っている。同じように引っ込むのでフィルムコンの追加は音が加算されるようだ。奥で鳴っている
音がケミコンっぽいがなかなか複雑な音で悪くは無い。

ルビコン1μ

  これもASCより引っ込む音。UΣとは音色は違う。

QS 0.47μ

  ASCより引っ込み奥行きがある。音色も素直で良い。

  T−CAP CUとV2Aは都合がつかず今回はパス。



  繊細で本格的なQS、明るく音に支配力があるASCがこのなかでは選べる。今回のパスコンの交換ではぎょっとするほどの
変化は無く味付け程度のものだったと思う。

  終段MOSのスケルトン1は電圧増幅段が黒田氏設計のものだがパスコンによる音の変化は大きかった。音の変化が少ない
アンプというのは単に動作帯域が狭いアンプである可能性がある。