トランスインピーダンスアンプ

  電流を電圧に変換するアンプが、トランスインピーダンスアンプであるという。トランス
インピーダンスはΩで表される。

  はて?アンプならば、電圧ゲイン(〜倍)でよいのでは?と思ったりするが、名著「続
トランジスタ回路の設計」にも抵抗で電流を検出して、トランジスタのコレクタ出力電流
から電圧を取り出す例が挙げてある。


  これはIV変換といいながら、内実はgm素子を使って増幅しており、いわば偽装
したIV変換であるといえる。有体に言えば、アクティブΩ素子が存在しない限りトランス
インピーダンスアンプは無いのである。

  実際のアンプの入力は電圧なのであるから、トランスインピーダンスアンプの場合は、
初段にバッファを設けている。バッファの電流出力の方を抵抗で検出するわけである
から、なんのことはない。直結2段アンプと同じである。

  完全アンプも初段で電圧を電流に変換しなくてはいけないから事情は似ているが、
内部は完全な電流増幅であり偽装はまったくない。


 1995年版 別府アンプ



  トランスインピーダンス方式を採用しているのは電流入力にしたサトリアンプと
この別府アンプが有名である。

  別府アンプには1995年のバージョンがあり、C2336B/A1006Bは4パラとなっている。

  記事によると(ラジオ技術2001年2月、3月)このようなトランスインピーダンス回路は、
差動2段アンプと比べ見通しの良いくっきりとした音であるということと、終段TRについて、

  C2336B > LAPT > (RET、EBT) > 三重拡散

  とあるので、追試して確認してみる。

  バイポーラの最高峰は、現代のサンケンLAPTか昔のNECのエピタキシャル
かと思っていたので大変興味深い。大きさが小さいということは、それだけで入力
容量が小さく情報量が多いことにつながる。しかも実測hFEが230と一般のパワー
TRより大きいところに有る。


このアンプを模式図で示すとこのようになる。(パワー段は省略)


  トランスインピーダンスの大きさは、gmに支配され、周波数特性は
gmの持つCobに支配される。gmは一般的に非線形である。


  サトリアンプはgmの項を無くして、非線形性を排除したアンプである。
しかしどうであろうか。トランスインピーダンスが1kΩくらいは無いとアンプと
しては成立しにくい。従ってR2=8Ωとなるパワーアンプではサトリ方式は
成立しないのである。電圧増幅段のみがサトリ方式なのである。


今回作ってみる回路

  C2336/A1006はOTECで昔購入したものでhFE=230のペアである。
とりあえずパラプッシュプルで組む。



  アイドリングを絞る必要があるので、バイアス調整回路を設ける。直結2段アンプと違う点は、
負荷抵抗が小さいことである。電流検出抵抗なのだから0.1Ωとかでよさそうなものだが、それ
では次段のバイアスを作れないので少なくとも330Ω以上でないといけない。

  負荷抵抗が小さいかぎりミラー効果の影響はない。



  ちょっとデールを奢ってみたが、アイドリングが不適だったので、あとでカーボン皮膜に変更。

8Ω負荷 0.1W


8Ω負荷 1W


  1Wでた。2次歪みが消えていてかなり不思議な特性。


  片chで試聴

  甚平に載せてもう音楽を聴いてみる。アイドリングを50mAになるよう監視しながら鳴らしている。



  1日目では、うーん、こんなものかと思った。いやな音がいっぱいする。いずれにせよエージング
するのでそれほど心配はしていない。

  なんとなく得心した。これを部品の交換でいやな音を無くして行くのは結構大変かと思う。



 2日目。軽やかに鳴るようになってきた。いやな音もときどきでている。高音はわりとチンチンピカピカ
と鳴る。弦はつややかな感じ。低音は充実感があり、ごりっとする感じも出る。

  いい機会なので他のバイポーラアンプと比べてみよう。

  例幣使 I

   モトローラの石でほぼ金田式。情報量があり、きれこむ感じはあるが高域はやさしい。低音はふくらむ
感じがあるが充実している。いやな音はほとんどない。

  桂 III

  終段LAPT。これも軽やかに鳴り、高域はふわっとやさしい。低域はごりっと来ず、かっちりと安定感
がある。やはりいやな音はない。

  私の理論では、シンプルな回路にはなるべく直線素子が必要であり、対称合成ではバイポーラ
よりFETのほうが有利。バイポーラの対称合成では高次の歪みをNFBで抑えることになる。

  そういう場合ふわっとした感じは出ず、ぎらぎらした感じが残る。

  鳴らしこみも二日目の後半になると軽やかに透明になってきた。しかし突き刺すようなきつい音がまだ
感じられる。


  3日目。間接音が増えたのか、奥行きを感じるようになる。ふつうはエージングと
ともに余韻と切れこみが増すものであるが、この場合は最初から切れこみがすごく、
やっと余韻がでてきた。いまでも直接音が多い感じがする。

  4日目。もう安定したかもしれない。音も聴けばおなじみの音という感じがする。
MY SPEAKERで簡易測定を試みる。










終段LAPTで組んでみた。もうわりと普通のアンプに近い。





  歪は極小。



  これだと最初からきれいに鳴る。差動アンプよりはネアカな音だろう。


  もう片チャンネル作ってみる。今度はドライバー段を省略してみる。2001年版別府アンプ
の回路図を良く見るとドライバー段は無かった。

  



  完成したところで音楽を聴いてみる。とくにこのままでも差し支えないようである。ジェームス・テイラー
のMud slide slimをかけてみる。今のところほとんど左右差を感じない。

  一日目から好ましい音で鳴っている。差動でない回路は、のびやかな、ゆったりとした感じで
スピーカーが鳴る。今回はプリがPRA2000なので、プリの初段以外はバイポーラである。


  特性は随分と差がある。プリの特性がよいので、このようになってしまった。




  この計測中に2の方が2次歪みが多いことが判明したが、それを示すにはMY SPEAKER
による計測データがわかりやすい。

  ドライバー有り


  ドライバー無し


  特性で決めるならドライバー無しを選択することはありえないが、聴感で決めるならどちらになっても
おかしくはない。


  2日目、音の左右差を調べてみた。

  離れて聴いてみる。音色についてはほとんど変わりはない。耳を近づけてみる。

  これは音の識別の基本のようなものであることがわかる。左はやや前方に音がでてくるが、
右は音場が後方に展開する。一般のオーディオ機器でもそのように評価が分かれることが
ある。

   音が出てくるほうがソフトディストーションの機器であり、音が引っ込むほうが低歪の機器
である。結線を見るとやはりそのとおりになっている。

  右のほうが直接音と間接音の分離がよく、よけいな音が少なくなっているが、直接音にやや
きつさを感じるので、優劣はにわかには決められない。左のほうが2次歪によってきつさが緩和
されているのだ。

  究極のシャーシ「甚平」に搭載されたトランスインピーダンスアンプ